研究開発の今日と明日

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 オルソリバースは綿(わた)形状の骨再生材料レボシスを生んだマイクロファイバー技術を応用して、さまざまな研究を行っています。研究が始まったばかりのものや研究が進み手応えを得ているもの、製品化に漕ぎ着けたものなど進捗状況は異なりますが、主な研究の概略を紹介します。

細胞培養基材

 沖縄の琉球大学と共同で行っているのが脂肪幹細胞を抽出して培養するための基材の研究開発です。この基材を利用することにより、脂肪の塊から脂肪幹細胞を抽出して培養する作業を、非常に効率よく行うことができます。

 マイクロファイバーから成る抽出培養シートは、生体吸収性のある3次元組織再生用の足場材としても機能することが特長です。すでに製品化され、商品名:「【研究用】幹細胞抽出培養シート」として、2018年12月から販売しています。

BMPと綿形状人工骨との混合使用

 骨の腫瘍やケガによる骨の欠損や癒合不全を治療するには、主に患者様の腸骨から採取した骨を充填する自家骨移植を行うのが一般的です。しかし、自家骨移植は、採取できる骨の量が不充分であったり、採骨部の痛みや骨折のリスクがあったりなど、さまざまな問題があることも事実です。

 そうした問題を解決するために進めている研究が、骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein:BMP)を用いる手法です。BMPは骨格形成、骨折治癒などのあらゆる生理的骨形成に必須の役割を担う骨形成を誘導するタンパク質なのです。

 米国では二つのBMP(BMP-2とBMP-7/OP-1)がFDA(アメリカ食品医薬品局)の認証を取得し、整形外科領域では特に前者の臨床応用が進んでいます(欧州も同様)。とはいえ、BMPには強い骨誘導能と局所に留め置くことができない性質ゆえの「異所性骨化」(望まない場所に骨ができてしまうこと)の問題が報告されています。

 そんなBMPのマイナス要素を排除するために、BMPに当社の綿形状人工骨を組み合わせる方法が考えられます。骨形成を司るβ-TCPを含む綿形状人工骨とBMPを融合させることにより、安全に骨の再生を促進する新しい複合材料(BMP製剤)を作り出そうというものです。BMPの働きにより、これまで以上により大きな骨欠損部での治療に対応できることが期待されます。研究段階では上々の結果を得ており、現在は動物実験を行っているところです。

抗菌性綿形状人工骨充填材

 高齢化の進む日本ではこれまで以上に骨や関節領域の手術が増えるとみられていますが、同時に手術部位における細菌による感染(術後感染)を防止することが重要です。

 そこでオルソリバースがスタートさせたのが、「術後感染を予防する抗菌性と優れた取扱い性を両立する抗菌性綿形状人工骨充填材」の開発を行う事業です。明治大学、名古屋工業大学、慶應義塾大学と四者で共同研究を行っています。

 2016年度からNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)より3ヶ年の委託事業に採択され、プロジェクトは一定の成果を生みました。実用化に成功すれば、術後感染の大幅な軽減に期待でき、患者さんのQOL向上に貢献できるものと確信しています。

綿状物の薬剤担体としての応用

 レボシスを生み出した当社開発の綿状物は、生体吸収性に優れ体内に異物が残らない、成形しやすい、繊維に薬効成分を練り込めるという特長があります。そうした特長を生かして考案したのが、綿状物の薬剤担体(ドラッグ・デリバリー・システム:DDS)としての応用です。骨再生をもたらす成分の代わりに、各種の薬剤を担持・徐放させるものです。

 この綿状物を薬剤担体として使う研究は、沖縄工業高等専門学校と当社の沖縄研究所が実施。薬剤として抗がん剤を担持させた綿状物を「がん化マウス」に埋植する実験を繰り返した結果、確かな手応えを得ました。

 綿状物に含まれた抗がん剤を一定期間に局所徐放させるやり方は身体に優しい処方です。一般的な抗がん剤は経口タイプにせよ点滴タイプにせよ人間の身体全体を巡るため、どうしても副作用の影響が強くなります。しかし抗がん剤を含ませた綿状物を患部にピンポイントに留置することにより、長時間にわたり充分な抗がん作用を発揮しながら、副作用を軽減することが期待されます。